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聖闘士星矢 超外伝 異世界のバラ(その1)

※一応この作品は、聖闘士星矢の魚座のアフロディーテを知らないと楽しめないかもしれません。
いや、知らなくてもまあ、普通の異世界ものとして楽しめるかもしれませんが。
異世界に転生したアフロディーテですが、決して前世を思い出すことはないという、ほぼ転生ものではない内容です。
最初はね・・・黄金聖闘士の能力が異世界で使えるのかどうかという議題からはじまったのですが、アフロディーテって属性なくてバラだけだよね・・・バラ以外って何かあるのか・・・・・ないな。から始まりました。
普通に転生して記憶ありだとさすがに普通に戦えそうなので、思い出さないけど、魂のどこかにはあるという感じで進めていこうと。
まあ、読んでみてもらえれば。
それではどうぞ。


アディは、異世界の由緒正しきグラシアス侯爵家、エルランド侯爵とロザリンド夫人の三男として生を受けた。彼はただただ、好奇心旺盛で心優しい少年として育った。

侯爵家の子息として、礼儀作法や学問はもちろんのこと、剣術や魔術の基礎も学ぶ日々。しかし、他の兄弟たちとは少し違う点があった。長兄のライナスは剣の才に長け、次兄のユーリは魔術の才能を開花させていたが、アディには目立った「魔力」の兆候が見られなかったのだ。

「エル、アディには本当に魔力がないのかしら? このままだと…」

ロザリンドが不安げに尋ねる。

「ロザリー、まだ小さい。これから伸びる可能性もあるだろう。それに、アディは心優しい子だ。それもまた、立派な才だ」

エルランドは妻を慰めながらも、内心では少なからず懸念を抱いていた。貴族の子息として、何らかの才能を示すことは半ば義務のようなもの。魔力がないことは、周囲に少なからず不安を与えた。しかし、アディ自身はそんなことなど露知らず、ただ庭を散策したり、本を読んだりするのを好む穏やかな子供だった。

アディが8歳になった年の春、グラシアス家では代々続く「天啓の儀」が執り行われた。これは、その年の貴族の子息が持つ潜在的なスキルや適性を明らかにする儀式だ。

「アディの番だ。魔力計は…やはりゼロか」

エルランドが小さく息を吐く。

ロザリンドは不安そうにアディを見守っていた。

「どうか、何か、何か才能がありますように…!」

アディが水晶に手をかざすと、何も起こらない。誰もが落胆しかけたその時、水晶の表面に微かな光が灯り、誰も見たことのない奇妙な文字と、「C: 7」という数値が表示された。そして、その下には「スキル:バラ」とだけ記されていた。

「バラ?」

会場にはざわめきが広がった。

「『C』って何だよ? スキルがバラだって? なんだそれ」

ライナスが眉をひそめる。

「魔力なしでスキルが発現したのかな? 『C』って数値も見たことないや…これ、研究のしがいがありそうだね、兄さま」

ユーリは冷静な中に好奇心を滲ませた。

貴族のスキルとして知られるのは、炎や風といった属性魔法、治癒、身体強化など、いずれも実用的なものばかり。「バラ」という前代未聞のスキルに、皆が首を傾げた。そして、魔力計がやはりゼロを示しているにも関わらず、スキルが発現したことも大きな謎だった。

天啓の儀以降、アディは自身の「バラ」のスキルと向き合うことになった。最初は、手のひらから小さなバラの芽を出すことしかできなかったが、彼が意識を集中すると、芽はみるみるうちに成長し、美しい花を咲かせた。それも、その季節には咲かないはずの品種や、図鑑にも載っていないような奇妙な色合いのバラだった。

「坊ちゃまのバラは、どうしてこんなに生命力が強いのでしょうな?」

庭師のベテランが首を傾げながらも、アディの育てるバラに驚嘆する。アディは彼に教えを乞いながら、バラの世話に没頭した。病弱なバラも、アディが触れるだけで見違えるように元気になった。

そして、ある日、彼は全く新しい品種のバラを生み出すことに成功した。それは、深紅のつぼみがゆっくりと開くと、見る者を惹きつけてやまない、息をのむような美しさを秘めたバラだった。

しかし、その能力の根源である「C」という数値は、誰も理解できなかった。侯爵家の学者が書物を漁り、様々な文献を調べても、「C」という概念や、魔力を持たない者がスキルが発現する例は見つからない。アディ自身も、なぜ自分がこんなことができるのか、全く分からなかった。

ただ、バラを育てている時だけは、なぜか心が満たされ、安心できたのだ。

彼は周囲の困惑をよそに、ただひたすらバラを愛し、大切に育て続けた。その姿は、貴族の子息というよりも、一人の純粋な園芸家のように見えた。

アディが10歳の誕生日を迎えた日、彼の心はいつもと変わらず穏やかだった。自室の窓辺で、丹精込めて育てている特別なバラに語りかけていた。彼の隣には、天啓の儀で手に入れた「C: 7」と記された奇妙な木片が置かれている。バラの柔らかな花びらに触れ、その神秘的な美しさに心を奪われていると、突然、遠くでけたたましい警鐘が鳴り響いた。

街中が騒然となる。人々が悲鳴を上げ、混乱の中で逃げ惑う。グラシアス侯爵家の使用人たちが慌ただしく走り回り、廊下からは「魔物の大群だ!」「街の門が破られた!」という絶望的な叫びが聞こえてくる。

アディは瞬時に状況を理解した。魔物が、彼の住む街に押し寄せている。生まれて初めての、命の危機。彼の心臓が激しく鼓動する。しかし、不思議なことに、恐怖よりも先に、彼の内側から何かが湧き上がってくるのを感じた。

「エル! 何が起こっているの!?」

ロザリンドの声が震える。目の前では、侯爵家の護衛兵たちが慌ただしく武装を固めていく。

「ロザリー、落ち着け! ライナス、ユーリ! お前たちは直ちに前線へ! 領民の避難を最優先だ!」

エルランドの顔に焦りが滲む。窓の外には、すでに黒い影がうごめいていた。

ライナスは無言で剣を抜き放ち、ユーリは杖を握りしめる。

「父上、母上、ご安心ください。必ずやこの街をお守りいたします!」

「兄さま、無茶はしない方がいいよ! 僕もすぐ後を追うからね!」

二人の兄は、それぞれの武器を手に、覚悟の表情で飛び出していく。

その時、ロザリンドの視界に、庭へと駆け出すアディの小さな背中が映った。

「アディ! どこへ行くの!? 危ないわ、戻ってきなさい!」

夫人の悲痛な叫びも、10歳のアディには届かない。

「アディ! お兄ちゃんたちが戦うんだから、フィーネと隠れてなさい!」

姉セレーネは、アディを庇おうと手を伸ばすが、アディはすでに庭の奥へ。

「お兄ちゃん、どこ行くの?」

妹フィーネは、ただアディの後ろ姿を追いかけていた。魔物の声に怖がりながらも、兄が何か大切なものに向かっているような気がして、目が離せなかった。

庭に飛び出したアディの目に映ったのは、彼が丹精込めて育ててきたバラたちが、風に揺れながらも力強く咲き誇る姿だった。その中でも、ひときわ目を引く真紅のバラが、彼の視線を引きつける。魔物の咆哮が耳を劈き、街が崩壊していく様が視界の端で揺れる。恐怖と絶望が、アディの心を押し潰そうとする。

「嫌だ…! 僕のバラが…みんなが…壊される!」

その瞬間、アディの胸の奥底で、何かが爆発した。それは、幼い彼が抱える無垢な優しさが、理不尽な暴力によって踏みにじられることへの、根源的な怒り。彼の心臓が、まるで別の存在の心臓と重なったかのように、激しく脈打つ。

その時、まるで魂に直接響くかのように、真紅のバラがアディに語りかけた。

「私を投げよ」

脳裏に直接響くような、しかしどこか懐かしい声に、アディは戸惑いながらも、無意識のうちにそのバラの茎に手を伸ばした。棘が皮膚をかすめるが、痛みは感じない。バラは、彼の掌にしっくりと収まった。バラが、アディの熱を帯びた身体から、生命力を吸い上げているかのように光を放つ。

そして、街の門が完全に破壊され、魔物たちが家々を蹂躙し始めようとしたその時、アディの口から、彼自身も聞いたことのない言葉が、魂からの叫びのようにほとばしった。

「ロイヤルデモンローズ!」

その言葉と共に、アディが持っていた真紅のバラは、まるで生きているかのように、彼の掌から勢いよく飛び出した。バラは、真っ直ぐに迫りくる魔物の群れの中心へと飛んでいく。

刹那、バラから放たれたのは、美しさとは裏腹の、おぞましいまでの破壊だった。辺り一帯に甘く妖しい香りが満ちると同時に、バラから放たれた無数の花びらが、刃のように魔物たちを切り裂いていく。それだけではない。花びらに触れた魔物たちは、次々とその動きを止め、苦悶の表情を浮かべながら、全身が漆黒に変色し、そのまま塵となって崩れ落ちていく。まるで、猛毒に侵されたかのように。

瞬く間に、先頭を切って突進してきた数十体の魔物が、見るも無残な姿で消滅した。残されたのは、先ほどまで魔物がいた場所を漂う、甘く恐ろしいバラの香りだけだった。

呆然と立ち尽くすアディ。彼自身の体が、わずかに熱を帯びている。なぜ自分にこんな力が? なぜ「ロイヤルデモンローズ」などという言葉が口から出たのか。意味は全く分からない。ただ、彼の隣に置いてあった「C: 7」と書かれた木片が、微かに、しかし確かに光を放っているように見えた。

彼の心には、魔物を退けた安堵とともに、新たな困惑と、自身の中に秘められた未知の力への畏怖が芽生えていた。

アディの目の前で起こった信じられない光景は、戦いの最中にあった家族や、逃げ惑う領民たちの目に焼き付いた。

「あれは…アディがやったのか!?」

エルランド侯爵は、魔物の大群の先頭が文字通り消滅したことに息を呑んだ。魔力を持たないはずの彼が、一体どうやって。

「アディ…まさか、あれが貴方のスキル…?」

ロザリンド夫人も、その信じがたい光景に言葉を失い、恐怖と驚愕が混じり合った感情で息子を見つめる。

最前線で剣を振るっていたライナスは、突然消滅した魔物の群れに目を見開いた。

「アディ…まさか、お前が!?」

15歳のライナスは、魔力を持たないはずの弟が、自分では到底成し得ないような、圧倒的な破壊力を見せたことに、畏敬と、微かな嫉妬にも似た感情を覚えた。ユーリもまた、冷静さを失っていた。

「信じられない…バラ…そして、『C』の数値…アディ、お前は一体…!?」

14歳のユーリの研究者としての好奇心が、困惑を上回ろうとしていた。12歳のセレーネは、バラの美しさと恐ろしさが同居する弟の力に混乱し、ただ「アディ…」と呟くことしかできなかった。

しかし、8歳のフィーネだけは目を輝かせ、

「お兄ちゃん、すごい!」

と純粋な称賛の声をあげた。

魔物の侵攻に絶望し、死を覚悟した領民たちは、突如として魔物が消滅したことに呆然とした。そして、その中心にいた幼いアディの姿を捉えた時、彼らは畏怖と感謝がない交ぜになった感情に包まれた。

「あれは…侯爵様の三男坊か?」

「バラの魔法だというのか…?」

「我らを救ってくださった…」

彼らの間では、アディの奇跡的な力が、伝説として語り継がれていく予感がした。

魔物の侵攻から数日後、グラシアス侯爵家のもとに王宮からの召喚状が届いた。それは、エルランド侯爵と、異例にもアディを名指しでの謁見を求めるものだった。

「父上、なぜ僕まで…?」

アディは不安げに尋ねた。

「アディ、お前が魔物の大群を退けたことは、すでに王都に知れ渡っているようだ。王もその力に興味を持たれたのだろう。決して無礼のないように」

エルランドは、アディの手を握り、真剣な眼差しで告げた。ロザリンドは心配そうな顔で二人を見送った。

「エル、アディのこと、頼んだわよ」

「ああ、ロザリー、任せておけ」

王都への道中、アディはずっと落ち着かない様子だった。自分の力が何なのか、なぜあんなことができたのか、まるで理解できない。漠然とした不安が、アディの心を覆い続ける。手元には、いつも心を安らげてくれる真紅のバラが一輪、丁寧に包まれて握られていた。

王宮の謁見の間は、想像以上に荘厳だった。玉座に座る国王の威厳に、アディは思わず息をのむ。エルランド侯爵がひざまずき、アディもその隣に倣う。

「面を上げよ、グラシアス侯爵、そして…アディ・フォン・グラシアス」

国王の声が響く。アディは恐る恐る顔を上げた。国王の視線が、真っ直ぐにアディを捉える。

「侯爵、そなたの三男が、領地を壊滅の危機から救ったと聞いた。魔力なき者が、かくも絶大な力を行使したとは…信じがたい。その力について、説明せよ」

エルランドが、魔物の侵攻の状況と、アディが「ロイヤルデモンローズ」と叫び、真紅のバラが魔物を一掃した経緯を詳しく説明した。

「『C: 7』、そして『バラ』のスキル…前例がない。しかし、その力はまぎれもなく王国を救った」

国王は深く頷いた。アディは、自身の力の詳細を問われることを恐れていたが、国王はそれを深く追求することはなかった。代わりに、労いの言葉と、褒章が与えられた。アディは、まだ自身の力の正体が掴めず、不安を抱えたままだったが、ひとまずの謁見は無事に終わったことに安堵した。

その夜、王宮でアディとエルランドのために晩餐会が催された。豪華な料理が並び、貴族たちが談笑する中、アディは居心地の悪さを感じていた。自分の力が何なのか、もし再び暴走したらどうしよう。そんな不安が、彼の心の中で渦巻いていた。

その時、一人の少女がアディのそばに近づいてきた。アディと同じくらいの背丈で、明るい色の髪を揺らす、可憐な少女だった。

「アディ様でいらっしゃいますね。わたくし、この国の第四王女、リリアーナと申します」

少女は神秘的な笑顔を浮かべ、優雅に頭を下げた。その笑顔は、アディの心を包み込むような、不思議な安らぎを与えた。不安で硬くなっていたアディの心が、ふっと軽くなるのを感じた。

「僕は…アディです」

アディは緊張しながらも、ぎこちなく答えた。

「魔物を退けたお話、聞きましたわ。わたくし、あなたのバラの力に、とても興味がありますの。もしよろしければ、この後、王宮のバラ園をご案内してもよろしいかしら?」

リリアーナ王女の提案に、アディは驚いた。自分の力を恐れるどころか、興味を持ってくれる人がいることに、少しだけ心が温かくなった。彼は、バラを愛でている時だけは、自分の心が安らぐことを知っていた。その場所で、王女と過ごす時間があるのなら、少しは気が紛れるかもしれない。

「はい…ぜひ」

アディは頷いた。

晩餐会の後、アディはリリアーナ王女と共に、月明かりに照らされた王宮のバラ園を訪れた。そこには、見たこともないような珍しいバラが咲き誇り、甘く芳醇な香りが満ちていた。

「ねぇ、アディ。このバラ園、すごくない? 私、ここが一番好きなんだ」

リリアーナ王女は、人払いをしたことで、一気に言葉を崩して話しかけてきた。その気さくな態度に、アディの緊張が少しほぐれる。彼女は、優しくバラに触れた。

「一つ一つのバラに、それぞれ違った物語があるような気がするの」

アディも、自分が育ててきたバラとはまた違う、王宮のバラの美しさに目を奪われた。

「僕のバラも、こんな風に綺麗に咲かせたいです」

アディが呟くと、リリアーナ王女はにこやかに答えた。

「きっとできるよ。アディはバラにとても愛されているみたいだし」

その言葉に、アディの胸の中に温かいものが広がった。自分の力が何なのか、まだ分からないけれど、バラを愛し、バラに愛されているというリリアーナの言葉は、彼の不安を少しだけ和らげてくれた。

月明かりの下、二人の子供は、美しいバラに囲まれて語り合った。アディは、この神秘的な笑顔を持つ王女との出会いが、自分の未来にどんな影響を与えるのか、まだ知る由もなかった。

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